山岳遭難事故に遭わないためにあなたが知っておくべきこと

山岳遭難事故に遭わないために

山岳遭難事故は後を絶ちません。毎月のように、遭難のニュースを目にしますし、1年中登山での事故は起こっています。私自身も遭難したことがありますし、今後、山岳事故に遭わないとも限りません。
なんとか防ぐことはできないものでしょうか? 
私なりに、遭難事故に遭わないために思ったことを書いてみます。
参考程度に!あくまでもすべて自己責任において行動してくださいね


山岳遭難事故の常識と盲点

山岳遭難の登山者に、初心者とベテランの区別は無い

山岳事故のニュースなどをみていますと、「ベテラン登山者がなぜ?!」みたいな見出しをみたりします。
県警などの統計をみたらわかりますが、なぜ?!じゃないです。あれは、記者が初心者心理を煽っているだけです。誰でも事故は起こりえます。
事故は気が緩んだときに起きやすい、というのは、何百年も前に孔子が説いています。
リスクの恒常性という統計からしても、ベテランになれば、より危険な領域に入るので、事故にむしろ遭いやすいのかもしれません。
弘法も筆の誤り。そこに、ベテランも初心者もないのです。
「オレは経験を積んだ」なんて思いは捨てましょう。

事故は思っても見ないことしか起こらない

あーやっぱりねーというふうに、事故が起きてから思う人はいないでしょう。
私がこんなことに遭うなんて・・・・
という言葉を、きっと県警の山岳レスキューの方々は毎回聞いているのかもしれません。
だからここで、自分にもいつかそんなときが来るかもしれない!という風に考えておくことは、けっして損ではありません。
むしろ、潜在意識に警鐘を鳴らせてくれるはずです。

「山に連れて行ってやるよ」という無責任な発言

山岳遭難事故に遭わないために
誰にでもあると思います。あそこなら行ったことがあるから連れて行ってやるよ、とか、今度あそこに行ってみたいけど、あなたも来ない?とか。
その言葉を発したときに、相手の命を守る責任は、可能な限り私が持ちます、と、心のなかででも言えたでしょうか?
気安く人を誘うときの心理の多くは、「私が先導してあげたい」「私より体力が無い人で自分を安心させたい」「いいところを見せたい」などの動機ではないでしょうか。あるいは頭数や交通費削減のためもあるでしょう。
決して、誘うことが悪いということではありません。そうやって、人は山の世界に入っていくものだとおもうのです。
ただ、ガイドをしていてつくづく思うのは、責任感が生まれると、軽はずみでは、ますます行動も発言もできない、ということです。このことを知っているだけでも、いざという時の判断に、慎重さが生まれることもあるかと思います。

「過去に行ったことがある」経験の落とし穴

人は、物理的なもので物事を考えてしまいます。山に登った経験があれば、その山は制覇した、と考えがちです。
しかし、山とは、たんなる日本語という言葉にしか過ぎず、そこにある(山という)存在そのものは、その日、その時に、その人が体感したものが唯一無二であって、たとえその人が何度もそこに行ったとしても、経験した数だけの山(の存在)があるのです。
だから、次に行く山は、未知数であるはずなのです。

 

〇〇には自信があります

2019年追記です
最近よくメールなどのやりとりで、「体力には自信があります」とか、「運転には自信があります」など、
〇〇には自信があります、という方がいらっしゃいます。
こういう方で中高年の方は気を付けたほうがいいと思います。
自信があるということをPRして自信のステータスを認めてもらうためなのか、あるいは本当に自信があるのかもしれませんが、そこに落とし穴があるともいえます。
まだ若ければ、経験も自信もないでしょうし、若さでなんとかなります。しかし、歳を重ねてくると、変な自信が付くのと同時に衰えもあるはずです。
そして思考が頑なになってしまうものです。
失敗を顧みて、その可能性を謙虚に受け止めることにより、事故は回避できるかもしれません。
しかし、自信があります、大丈夫ですって言いきってしまえば、もう回避する考えが浮かばないんじゃないでしょうかね。
人は絶対に失敗します。それありきで動かない人ってのは大失敗につながるんじゃないでしょうか。そのときになって想定外だった…なんてね。
登る前:気持ちが先走って欲張りな計画をする 
登山直前:心配と緊張の日を過ごす 
下山後:無事だったので酒飲んで忘れる。
なんてこと繰り返していないでしょうか!?
ここまで

 

山の事故を防ぐ大きなタイミング

計画段階で事故を防ぐ

そもそも、計画しなければ事故は存在できません。しかし、「そこに山があるから」という衝動は抑えられ難いものです。
とはいえ、計画の段階で、対策をとることは、十分可能です。出発前の計画というのは、実体験がともなわないので、どうしてもおろそかになりがちですね。
しかし、現地での究極の判断や、事故時の対応と処理の労力を思うと、計画の実行なんて、ささいなことで済むのです。
適切な山、適切な時期、適切なコース、適切なメンバー・・・勢いと思い付きは必要ですが、その下請け(計画)もしっかりとやっておきましょうか。

出発段階で事故を防ぐ

出発をやめれば、これも事故を防ぐことが出来ます。100名山とか、○○ルート制覇とか、なにかこだわっている人は要注意です。
悪天候などでも「仕方が無い」とあきらめることを学びましょう。
さらに、近年の異常気象下では、まったく過去の経験が当てにならないような事象も起こりえます。そのことも意識の隅にいれておくべきでしょう。

現地で事故を防ぐ

現地での判断はもっとも難しいです。それも、奥に進めば進むほど、引き返すのが難しくなる、ということを知っておきましょう。「あるある!」一度でもこういう経験をしたのなら、それを忘れないことです。人間はいつでも忘れることができますので(笑

山岳遭難事故を防ぐ具体的な対策

まぁ当たり前のことを綴っていきます。再確認してください。

天気・気象に注意する

山岳遭難事故に遭わないために
出発前であれば、気象図を見たりして、大方の山の天候を知っておいてください。多くの登山者は、気象状況ではなく、街の天気予報を見ています。最近は山の天気予報もでていますが、可能であれば、「なぜ天気が良い(悪い)のか」を理解しておいたほうがいいでしょう。最終的には自分の判断ということになります。
ここで重要なのは、多少天候が悪くても、休みがこの日しかない・予約を取ってしまった、などという圧力ともいえる見えざる強制力があるということも意識しておいたほうがいいでしょう
気象情報サイトウィンディ(アプリもあり)についての記事を書いていますのでご参考までに

軽量化に勤める

軽量化することは、実は安全につながります。
体力温存とスピード、そして、余力ができるからです。常に軽量化を求めてシンプルに登山することに心がけて欲しいと思います。
参考記事
装備軽量化アレコレ|登山を快適に楽しむための軽量化対策

歩くペースは考えろ

最近は、ガムシャラに歩く人を見かけるのは少なくなり、若者でも山を楽しんでいる風には見えます。しかし、どんな人でも、気にしていないとペースは速くなるものです。歩き出しから、最後まで同じペースで歩くことが理想でしょう。当然なかなかそうななりませんが、後半のことも考えて行動するということも大事です。なぜならば、下山に事故が多いという事実がすべてを説明してくれていますから。

登山届けを必ず出す

山岳遭難事故に遭わないために
これは、事故後の対応ということになりますが、届けを出す癖をつけておく、というのが大事だと思います。
現在、ネットからメールや登山届けフォームなどで、簡単に手続きができるシステムが構築されつつあります。
めんどうがらずに、この流れに便乗してください。

引き返すことをネガティブにとらえない

よく引き返すことを「敗退」といいます。
山と戦をする時代はもう終わりました(笑
なにか引き返すのは恥ずかしいとか、負けとか、ネガティブにとらえる必要はまったくないでしょう。
山に登ったときに、頂に立ったときに、なにが残るのでしょうか?
経験ですよね。
敗退は、偉大な経験だとおいっておきましょう。

軽い気持ちのソロ登山

ソロ登山が流行っています。
私もよくソロやっていますし、本来の山はソロだとおも思います。
しかし、です。そんなときは、真剣に山と向き合ってください。
真剣に、です。そこ、大事ですよ

臆病者が得をする

臆病なことは、生き延びるための重要な防御スキルだと思います。
こわい!と思う気持ちがないと、突っ込んでしまいます。
怖い!と思うことの何がいけないんでしょうか?
腰ぬかしてでも、撤退してください(笑
山岳遭難事故に遭わないために

常に最悪のパターンを考える

なんてネガティブなんでしょう!?とは思わないで。
最悪のケースを想定しておくことは、事故を未然に防ぐことが出来るかもしれません。
「思ってもみなかったこと」しか事故は起こらないのですから、思っておけば、おこらないのです。
ただし、それは、意識の隅において、静観です。
何かあったら、落ち着いて、深呼吸。